裁判所では、婚姻費用はどのように算定される?

婚姻費用とは?

金沢の弁護士の山岸です。

今回は、婚姻費用についてお話しします。

「婚姻費用」とは、夫婦の社会的地位や身分等に応じた夫婦対等の社会生活を維持するために必要な費用のことをいいます。

夫婦対等、ということで、家計が夫婦で別管理になっていれば当然収入によって差が付きますから、「分担」して調整しなければならないことになります。

では、どうやって分担するか。

ここで出てくる考え方が「生活保持義務」です。

「生活保持義務」とは、自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務、です。

要するに、「生活の保持」という観点では、配偶者に対しても自分と同程度の生活をさせる責任があるということです。

注意すべきなのは、これは、別居中でも妥当するということです。

・・・弁護士が入って配偶者に請求する場合は、ほとんどが別居中の場合ですね。

また、どちらが子どもを監護(要するに、同居して世話)しているか、ということも踏まえて算定されます。

その意味では、籍が入っている・離婚していないうちは、子育てにかかる費用も、養育費という名目ではなく、婚姻費用の分担の内の問題になります。

 

婚姻費用の分担額算定の考え方

婚姻費用の分担額とは、収入の多い配偶者から収入の少ない配偶者に支払われる金銭のことです。

ここで、収入の多い配偶者を義務者(分担金を支払う義務がある者)とよび、収入の少ない配偶者を権利者(分担金を受け取る権利がある者)とよびます。

この金額をどう算定するかについては、いろいろな考え方がありうるところでしょう。これまで、裁判所もいろいろな考え方を示し、弁護士も議論を重ねてきました。

現在の裁判所における考え方(別居中の夫婦の場合)は次のようになっています。

夫婦双方の収入を合算し、夫婦の収入の合計を世帯収入とみなし、別居中の夫婦どちらが何歳の子どもを何人監護しているかによって、世帯収入の分け方がほぼ自動的に決まる。その結果、義務者が権利者に支払うべき金額が算出される・・・というものです。

裁判所で使っている計算式では、ここでいう「収入」とは、税込収入から「公租公課(税金などのことです)」・「職業費(仕事用の被服費・交通費などです)」・「特別経費(住居関係費・保健医療費などです)」を控除した金額のことをいい、これを「基礎収入」と呼んでいます。

この基礎収入についても、裁判所は、簡略化した取扱をしており、通常の場合は個別事情に応じて計算するわけではありません。

統計上、給与所得者の場合は総収入の約34~42%が基礎収入になることが多く、自営業者の場合は総収入の約47~52%が基礎収入になることが多いとされていることから、裁判所はそれを元にした推計値を使っています。

そして、裁判所で使っている計算式では、夫と妻は成人であり、生活費の指数が100。15歳~19歳の子は生活費の指数が90(成人の90%)。0~14歳の子は生活費の指数が55(成人の55%)。この割合で計算されます。

 

計算式は「絶対」なのか?

推計で公租公課・職業費・特別経費を機械的に控除したり、子育てにかかる費用を数値化したりしているけれども、実際自分たち夫婦の場合には特別な事情(それぞれの費用が標準的ではない!)があるのに、それが考慮されないの? どうすれば考慮されるの? という疑問は当然出てくるところでしょう。

この点については、様々に議論のあるところです。

しかし、現状の裁判所の実務では、「あくまで標準的な婚姻費用を簡易迅速に算出するために計算式や算定表を用意した」と裁判所は言いつつも、やはり計算式や算定表で出た結果を裁判所はかなり重視していて、各夫婦の個別的な事情を考慮して計算式や算定表から大幅に外れた額を裁判所が決めることはあまり(ほとんど)ない印象です。

たとえば、持ち家率の高い県では多いケースだと思いますが、一方が住宅ローンを支払っていて、高額な婚姻費用を支払っていては当面の生活が相当苦しくなるような場合があります。そのようなときも、住宅ローンの支払者がその住宅の所有者だということになれば、計算式・算定表から大きく外れた額の認定にはつながりません。

また、別居に至る経緯に関して相手方の非を主張しても、計算式・算定表により算出された婚姻費用はほとんど左右されることがありません。

ですから、弁護士としても、現在裁判所が用いている計算式・算定表を無視するようなことはできないのです。

 

算定表を”改訂”する動き

算定表は、2003年に発表されたものであり、問題点も指摘されているところです。

そのため、日弁連は、2016年に「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」(pdf)を出しています。この「提言」は、弁護士全員一致で出されたようなものではありませんが、有力な意見であるといえますので、今後裁判所がどのように提言を取り扱っていくのか注目されます。

 

金沢法律事務所 弁護士 山岸陽平